VAL-MAPとは?

Virtual-assisted lung mapping (VAL-MAP) とは、肺切除手術支援の目的で、術前、気管支鏡下を用いて肺に複数の「マーキング」を施し、これらの集合体として肺に地図を描く「マッピング」を行うことを指します。この際通常、バーチャル画像(バーチャル気管支鏡、3D画像構築)を用います。
微小肺病変に対する外科的診断・治療に際して、腫瘍の位置を同定するために行われてきた術前CTガイド下マーキング(経皮的に肺を穿刺する方法)は、空気塞栓による心筋梗塞・脳梗塞、出血、気胸、hookiwireの脱落などの合併症が報告されており、呼吸器外科医にとって大きな懸念材料でした。またCTガイド下生検では、縦隔側や葉間、肺尖、横隔膜面、肩甲骨の裏などアプローチしにくい場所がありました。穿刺に伴い気胸になることが多いため、複数個所のマーキング(とくに複数病変を有する場合など)が必要な場合には制限がありました。
こうした問題を克服する方法として筆者(佐藤雅昭)が京都大学(当時)で2012年に開発したのが、Virtual-Assisted Lung Mapping (VAL-MAP)法です。高解像度CT画像を基に3次元再構成したバーチャル気管支鏡をガイドにして、気管支鏡下に少量の色素(インジゴカルミン)を肺表面に吹き付け印をつけます。複数個所(2-6箇所程度)の印を同時につけることで、可塑性に富む「肺」という臓器の表面に角度、相対的距離といった位置情報を与えることができるため、従来の「マーキング」と一線を画して「マッピング」と呼ぶことにしました。またバーチャル画像(バーチャル気管支鏡)を用いてマッピングのデザインを行い、また色素によるマッピング後にCTを撮影し、それを3次元構成したバーチャル画像を手術の際に参照することから、”virtual-assisted” ~という名前になっています。
VAL-MAPは複数の臨床試験を経て、様々な方向に発展を遂げています。2020年6月現在、下記のものが、VAL-MAPの発展形として報告されています。
- 電磁誘導気管支鏡を用いたVAL-MAP (ENB-VAL-MAP)
- 気管支鏡下マクロコイル留置を併用し、奥行き、深さの情報を加えた3次元マッピング (VAL-MAP 2.0)
- インドシアニングリーン(ICG)を用いたVAL-MAP
- 気管支鏡を手術室で行い手術室備え付けのCTを撮影する方法
VAL-MAPは、そうした発展形も含め、バーチャル画像と気管支鏡を用いて肺に情報(=地図)を付加し、手術支援を行う方法の総称と考えています。
尚、現在保険診療として日本国内でオフィシャルに実施可能なものは、インジゴカルミンを用いたVAL-MAPのみです。ICG、電磁誘導気管支鏡を用いた方法は、研究として倫理委員会を通したうえで実施するか、実臨床の中で適応外として所定の手続きを各施設の判断で行ったうえで実施することになります。マイクロコイルを用いたVAL-MAP 2.0 は2020年5月に先進医療を終え、近い将来保険適応となることが期待されます。保険に関しては、VAL-MAPの保険収載状況もご参照ください。