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VAL-MAPの手順(2)気管支鏡下マッピング

2-1.マッピングのタイミング

手術の当日,または前日,前々日にマッピングを行う.インジゴカルミンは少なくとも48時間以上肺内に残留することがわかっているが,徐々に吸収と拡散が進むため,マッピングから手術までの時間が短いほど鮮やかなマッピングを視認可能となることがわかっている(3).特に色素が見難くなる傾向が強い重喫煙歴のある患者(主に炭粉沈着がつよいため.Brinkman Indexが500を越えるとマーキングの術中同定率が下がるという報告がある(5))や,色素を肺実質に保持しておくことが難しいと思われる気腫のつよい患者では,VAL-MAPそのものを術中に確認することが難しくなるため(図3),手術当日のマッピングを勧めたい.

2-2.マッピング当日の準備

通常の気管支鏡検査と同様,午前のマッピングであれば朝絶食,午後のマッピングであれば昼を絶食とし,ライン確保を兼ねて点滴で補液を開始する.抗生剤投与,事前鎮静はオプションだが,稀にマッピング後に発熱することがある.これは他の気管支鏡検査でも同様だが,マッピングが手術当日ではない場合,熱発の程度によっては手術を延期しなければならないことが考えられるため,この合併症は極力避けたい.気管支鏡操作によるサイトカインの分泌などが関与しているとされ,必ずしも感染症,菌血症が原因とは限らないが,カテーテルの清潔操作を心がけること,抗生剤の予防投与を行うことはある程度の効果があるかもしれない.当院では抗生剤の事前投与をルーチンで行っており,これを開始して以降は問題となる熱発は経験していない.

気管支鏡検査のガイドラインでは推奨されていないが,アトロピンの投与は,使用禁忌がなければ勧めている.VAL-MAPは,気管支鏡が挿入可能な限界点より1-2分岐奥までを視認してカテーテルを挿入しなければならないことが多いが,気道分泌物が多いとこれが困難となり,不正確なマッピングになる.また不要にマッピングに時間を費やすことにもなり,かえって患者の負担を増やすことになる.

マッピング時の鎮静は必須と考えている.やり方は施設によって異なると思うが,当院では主にミダゾラムを使用,体の小さな女性では2mg, 男性では2.5-3mgをまず静注し,必要に応じて1mgずつ追加することが多い.ミダゾラムの逆行性健忘は,マッピング開始時にかなりせき込んだ場合でも,嫌な記憶を残さない利点がある.もちろんミダゾラムの過剰投与によるマッピング中およびマッピング後の呼吸抑制には注意を要する.またミダゾラム投与により脱抑制となって,かえってマッピング操作がやりにくくなる場合もある.

アタラックスPなど事前の鎮静薬投与はオプションだが,当院では患者の緊張を和らげ,ミダゾラムの導入をスムーズにするため,出棟時にアタラックスPの点滴を開始するようにしている.しかし全量を投与してしまうと,マッピング終了後に脱力などの副作用が出やすいため,半量投与程度でやめるようにしている.

咽頭麻酔をリドカインスプレーなどで十分に施し,患者を検査台に仰臥位に寝かせる.血圧,心電図,SpO2のモニタリングを行う.高血圧に伴い一過性脳虚血発作を生じた例がある.また関連ははっきりしないが,もともとPAFのある患者でAf発作となり,マッピング後に脳梗塞を起こした症例があるため,気管支鏡中はSpO2だけでなく,血圧変動や不整脈の出現はモニタリングすべきと考える.

気管支内噴霧用カテーテル(PW-6C-1)と、その三方活栓(x2)、1mlと10mlのシリンジ(10mlはロックつきが便利)、インジゴカルミンを準備する(図14A).スタイレットは抜去し(図14B左),スタイレットを抜いた部分には三方活栓のふたをつける(図14白矢印)。三方活栓を図のように接続し,1 mlのインジゴカルミンを図14Bの黒矢印からloadingする.この際,三方活栓の方向に注意し, エア注入用の注射器に逆流しないようにする.いったんインジゴカルミンが注入されたら,色素を注入した三方活栓を閉鎖して1 mlの注射器はとりはずす.空気注入用の三方活栓をひらいてゆっくりと空気で後押しし,色素の先端がカテーテルの先端から15cm程度のところまで来たところで三方活栓を閉鎖する(図14C).カテーテルを,先端を下にして持ち上げると重力の影響で色素が数センチカテーテル内を進むが,それ以上は動かないことを確認する.ここで色素がどんどん進む場合はカテーテル内がエアタイトになっていないことを意味する.そのまま気管支鏡に挿入した場合は色素が漏れ出てしまうので,三方活栓の方向が正しいか,キャップ(図14B白矢印)がしっかり締められているか,といった点を確認する.またカテーテル自体は再滅菌可能であるが,数十回使用すると劣化してくるため,とくにキャップをはめる部分に非常に小さな亀裂を生じることがある.この場合は新しいカテーテルにかえて準備をやり直す(したがってバックアップ用のカテーテルが1-2本はあった方がよい).

気管支鏡は,通常のX線透視が使える部屋で行う.術者と介助者はプロテクターを装着する.透視モニター,気管支鏡モニター,バーチャル気管支鏡モニターが必要である.バーチャル気管支鏡モニターは気管支鏡モニターのすぐそばにあるのが望ましい.当院ではそのようなセッティングが難しく,タブレットに図9で示した仮想気管支鏡画像をPDF化して表示している(図15).

2-3.色素注入手技

気管支鏡(BF-260, 290またはBF-P260, 290)を通常通りのやり方に従い,経口(場合によっては経鼻)で挿入し,リドカイン注入を適宜追加しながら気道に麻酔を施す.十分な鎮静・局所麻酔が効いていることを確認し,事前に作成しておいたバーチャル気管支鏡画像を基に標的気管支を同定する.しばしばバーチャル気管支鏡で同定しておいたほど十分末梢に気管支鏡を進められないこともあるが,カテーテルをある程度進めてからの方が気管支の角度が変わって奥(末梢)がみえることがある.また暗くて見えない場合は気管支鏡タワーの明るさ調整をマニュアルにして明るくすることで,奥の気管支の分岐がみえることがある.およそ注入予定の気管支が同定できたら,second carinaレベルくらいまで気管支鏡をひき戻し,気管支鏡の先端が中空にある状態で5-10秒ほど吸引をかける.この操作によって気管支鏡のチャンネル内に吸引した分泌物などをきれいにしておく.これを行わないと,チャンネルにカテーテルを進めていったところでチャンネル内に残っている分泌物が視界を悪くする.

目標気管支に向けてゆっくりとカテーテル進めていき,ここで透視をオンにする.可能な限り胸膜直下にカテーテルの先端(金属部)が来ることを確認できる位置に透視を回転するか,患者の体位を変える(図16).このとき背側(S2,S6,S10など)または腹側(とくに中葉・舌区)に色素を注入するときは患者を側臥位(マーキング側を上)とした方がよい.仰臥位で背側の肺胞は重力効果で虚脱するため色素が入りにくく,腹側の特に中葉・舌区は枝が短いこともあり,仰臥位で注入した場合,重力に従って手前に色素が戻ってきてしまいやすい.

色素注入は少しコツが必要で,VAL-MAPの成否を最も分けるポイントである(図17).まずカテーテルが十分末梢に到達していることを,透視とカテーテルを通して手に伝わってくる感覚で確認する.ここで空気注入用の三方活栓を開ける.この時点ではカテーテルの先端は末梢肺にウエッジしているので,注射器を押しても色素は進んでいかないはずである.やんわりと押すと,シリンジの目盛で見て2~3 ml分くらいは空気が圧縮されてプランジャーを押せるが,また跳ね返ってくるような感覚になる.

ここから1 mmずつゆっくりとカテーテルを引き抜く.まず透視をみながらカテーテルが動き過ぎないよう1 mm程度カテーテルを引き抜く.次に同じくらいの力でプランジャーを押してみる.まだ先端がウエッジしていれば,同じように2~3ml分くらい押して跳ね返ってくるが,ウエッジが解除される部分まで引けていればシリンジが進む.実際にはシリンジが進む感覚より,気管支鏡画面にうつっているカテーテルを青色色素が通過する方が早い.色素が進むのが見えたら少しカテーテルを押し込むようにしながら一気にプランジャーを押し込む.おしこめなければ,また少し引くようにする.この押し込み操作を恐る恐るやりすぎると十分な注入ができないことが多い.またマッピング後のCTでマーキング部位が確認できなくなることが多い.逆にあまり無理やり押し込むとブラをつくったり気胸になったりする恐れがある.先端がウエッジした状態で3mlシリンジを押すのに必要な力を維持するのが目安である.

シリンジ内の10mlのエアが入りきったら,追加でさらに10mlのエアを注入して,その標的気管支の注入を終える,三方活栓を輸血のポンピングの容量で動かすと追加のエア注入がしやすい.

上記の操作を,すべての標的気管支に順番に行う.1セットのマッピング内に,仰臥位の注入が適当な標的気管支と,側臥位の注入が適当な標的気管支が混在している場合は,同じ体位のものをできるだけまとめて行った方が効率がよい.

マッピングが終了したら気管支を抜去し,フルマゼニルを適量静注して鎮静をリバースする.逆行性健忘のため,患者はほとんど手技をされていたことを覚えていないことが多い.

VAL-MAPの色素噴霧にはコツがある。tips & pitfallsの解説ページも参考にしてください。

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多くの方々の手で発展してきたVAL-MAP

これまで、多施設共同研究など、日本、そして世界の多くの方々の協力でVAL-MAPは発展してきました。今後も患者さんに理想の治療を提供できるよう、研究開発と普及に努めてまいります。 日本VAL-MAP研究会 〒113-8655 東京都文京区本郷7-3-1 東京大学医学部附属病院 呼吸器外科医局 内 代表 佐藤雅昭

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