カテーテルによる色素注入が本手技の成否を決める最大の肝ですが、これにはコツがあります。色素を力任せに無理に注入したり、カテーテルを乱暴に進めれば気胸やブラ形成の原因となります。一方、注入が弱すぎれば胸膜がうまく染まらず術中にマーキングを発見できないことになります(約10%のマーキングで起こることが知られています)。適度なマーキングはその中間にあるといえます。
マーキングが見えない原因の半数以上は「中枢噴霧」と呼ばれるテクニカルな問題であす。これに、高度炭粉沈着、気腫肺、注入時の力不足などが続きます。中枢噴霧の原因の多くは、カテーテルを引き抜くスピードが早すぎたり、カテーテルの先端のwedgeが解除されるのを見逃したりすることです(こちらの動画もご参照ください)。透視で確認しながらカテーテルを焦らずに1mmくらいずつ引き抜き、その都度カテーテルを見ながらシリンジに圧をかけて色素が動かないかを確認します。まだ注入が始まらなければ再び透視モニターに目をやり、また1mmカテーテルを引き抜く、この繰り返しを行います。通常1cm程度引き抜いたところで注入が始まりますが、それ以上引き抜いても注入が始まらなければ、痰がカテーテル先端に詰まっているなど、何かうまくいかない理由があるかもしれないので、もう一度やり直すのがよいと思われます。
胸膜直下までカテーテルを進め、そこから少しずつ引いてくる感覚はTBLBによく似ています。昔(20年くらい前?)は呼吸器外科医が自分たちでTBLBをよくやっていたのですが、最近は呼吸器内科との分業が進んだこともあって,呼吸器内科の先生方の方がTBLBの経験が豊富であり、VAL-MAPの注入手技の習得もスムーズなようです。呼吸器外科が中心となってVAL-MAPを開始する場合も、積極的に呼吸器内科医に協力を仰ぐのも一法です。例えば聖路加国際病院の場合は、呼吸器内科が中心となって既に200例以上のVAL-MAPを実施しています。もちろん呼吸器外科医であってもコツをつかめばそれほど難しい手技ではないので、若い先生方には積極的に取り組んでいただきたい手技です。これは私(佐藤)の個人的な意見ですが、気管支鏡が上手にできることは、呼吸器外科医の守備範囲を大きく広げることになるので、若い先生方は決して内科の仕事だと割り切らずに、積極的に気管支鏡を勉強することを強くお勧めします。
動画での解説も是非ご覧ください。