2012年以来行われてきたVAL-MAP臨床試験の延長として,東大病院では、電磁ナビゲーション気管支鏡・superDimension (Medtronic社製)を用いたVAL-MAPの臨床試験を行いました.superDimensionはCT画像データを基に 3D 仮想気管支画像を生成し、病変部までの経路プランニングを行った後、電磁場を利用して肺の末梢の目標地点近傍まで気管支鏡(処置具含む)をリアルタイムに誘導する肺生検のための方法として2016年日本ではじめて薬事承認された機器です.従来のバーチャル気管支鏡を使った気管支鏡手技を,地図を見ながらの自動車運転に例えるならば,電磁ナビゲーション気管支鏡はカーナビを使った運転に相当します.本試験では、superDimensionをVAL-MAPに応用し,手術室で全身麻酔をかけたあとで気管支鏡下マーキングを実施しました.これまで局所麻酔下,鎮静下に行ってきた術前のVAL-MAPを,手術室入室後・全身麻酔下に行うことが可能とないました。
さらにVAL-MAP後のCTを省略するため、マッピング計画と実際のマッピングの位置を補正する”on-site adjustment”と呼んでいる方法を開発し、従来のVAL-MAPに劣らない精度のマッピングを実現することができたと考えています。本研究では合計26名の患者さんがENB-VAL-MAPを用いて肺切除を受けられました。本研究の成果は下記の論文に掲載されています。
Abstract (要約)
目的:従来のVirtual-assisted lung mapping(VAL-MAP)法(術前気管支鏡下に複数の肺マーキングを施す方法)では、マッピング後のコンピューター断層撮影(CT)により、色素マーキングの位置を確認する必要がある。本研究では、電磁ナビゲーション気管支鏡(ENB)は、マッピング後のCTを省略してVAL-MAPを簡略化しうる、という仮説を立てた。
方法:全身麻酔下で、ENBを使用してリアルタイムのナビゲーション気管支鏡検査を実施し、計画された場所にできるだけ近い場所に到達し、インジゴカルミンを注入した。その後、まず手術だけが行われた(無調整群; 3人の患者の5つの病変)。次に、現場での位置調整 (on-site adjustment) が手術前に追加された(調整群、4人の患者の4つの病変)。この群ではENBの位置情報が放射線ワークステーションに転送され、調整された3次元画像が作成された。予測された各マーキング位置の精度は、術中観察に基づいて格付けされた。分析後、21病変を有する19人の患者(実践群)は、on-site adjustmentを使用してENB-VAL-MAPを受け、外科的転帰を評価した。
結果: 予測されたマーキング位置の精度は、調整群が無調整群よりも高く(4.7±0.7 vs. 3.4±1.2; P = 0.01)、特に気管支鏡が計画された位置に到達しなかったマーキング間で差が大きかった(4.5±0.8 vs. 2.6±0.5; P = 0.004)。実践群では、肺マッピングの質は満足のいくものであり、切除結果は19/21病変(90.5%)で十分な肉眼的切除マージンを確保し得た。
結論: ENB-VAL-MAPの質は、on-site adjustmentを追加することにより改善され、従来のVAL-MAPと同様の臨床結果を達成した。従来のVAL-MAPでのマッピング後のCTのロジスティックな課題は、ENB-VAL-MAPにon-site adjustmentを加えることによって部分的に克服できると考えられる。
ENB-VAL-MAPは現在まだ保険診療としては認められていませんが(詳細)、患者さんの負担をさらに減らす方法として今後さらに研究を進める価値がある方法と考えられます。