先行のMIL-MAP studyの良好な結果をうけて、VAL-MAPの保険収載を目標に、全国19施設で先進医療BとしてVAL-MAPを実施しました(臨床試験登録番号:UMIN000022991)。今回の試験での目標は、十分な切除マージン(*)を確保した肺縮小手術(部分切除、または区域切除)とし、95%の症例でこれを達成した場合はVAL-MAPが有効であるとみなせる、との設定で行った単群試験でした。
*本試験の「十分な切除マージン」の定義:術前のCTで測定した腫瘍径以上または2cm以上のマージンを、切除標本(原則、ホルマリン固定前。ステープルラインの幅を含む)で確保できていること、とした。
153人の患者の203病変を切除対象とした本試験では、先行のMIL-MAP study と同等の結果が得られたものの、主要評価項目であった「十分な切除マージンを確保した切除」の成功率は87.8% (95%信頼区間、82.4-91.9%)にとどまりました。切除成功に影響を与える最も重要な要因は、十分な切除マージン(*)を確保するために必要な切離ラインの深さであることが示されました(下図)。すなわち、必要な切離ラインの深さが術前CT上で3cmに及ぶ場合は、約10%で深部の切除マージンが不足することが判明しました。これは、肺表面のマッピングであるVAL-MAP原法の技術的限界であるといえます。一方、肺表面に比較的近い病変に対しては、従来のVAL-MAP法が十分に有効であることが示されました。

この結果をうけて、現在インジゴカルミンを用いたVAL-MAPは保険診療として実施可能になっています(詳細はこちら).これにより,全国のどの施設でも,この方法を用いて手術中同定困難な肺内小病変の切除を行うことができるようになりました.
一方、肺表面のVAL-MAPの欠点を補うため、さらに肺深部にマーキングを施し3次元のマッピングを可能とするVAL-MAP 2.0 が開発され、2020年5月までに先進医療としての前向き臨床試験が終了しました。詳細はこちらをご覧ください。
尚,本試験の結果は2018年4月30日にアメリカ,SanDiegoで行われた米国胸部外科学会(AATS)で発表され,下記の論文をJournal of Thoracic and Cardiovascular Surgery に発表しました。オープンアクセスのため、下記より論文の本分をご覧いただけます。
Abstract (要約)
目的:Virtual-assisted lung mapping (VAL-MAP) は、術前、気管支鏡下に複数個所の色素マーキングを施す技術である。本研究の目的は、肺縮小切除術で十分な外科的マージンを得るためのVAL-MAPの有効性を調べることである。
方法:本研究は多施設共同前向き単群試験として、2016年9月から2017年7月までに19の登録センターで実施された。肺葉切除未満の肺縮小切除を要し、切除マージンの慎重な決定を必要とする患者が、VAL-MAPとそれに続く胸腔鏡手術を受けた。切除成功は、術前に計画された切除を、追加切除なしに、病変の直径または2 cmより大きいマージンを確保した病変の切除として定義した。この研究の主要な目標は、病変の95%で切除を成功させることと定義した。
結果: 153人の患者の203病変(平均直径、9.6±5.3 mm)を切除の対象とした。病変には、純粋および混合のすりガラス結節(75病変 [35.9%]および36 病変[17.2%])、固形結節(91病変 [43.5%])、およびその他(7 病変[3.3%])が含まれていた。外科的切除には、肺部分切除術(131、71.2%)、区域切除術(51、27.7%)、その他(2、1.1%)が含まれた。 178個の病変で切除が成功し(87.8% [95%信頼区間、82.4-91.9%])、190病変の識別にVAL-MAPが成功した(93.6%[95%信頼区間、89.3-96.5 %])。多変量解析により、切除成功に影響を与える最も重要な要因は、必要な切除マージンの深さであることが示された(P = .0072)。
結論: 本研究は、切除成功率が主要な目標に到達しなかったものの、VAL-MAPの効果については妥当であることが示された。必要な切除マージンの深さは、切除失敗につながる最も重要な要因であった。
本研究の参加施設
東京大学 •東京医科歯科大学 •聖路加国際病院 •国保旭中央病院 •NTT東日本関東病院 •日赤医療センター •順天堂大学 •産業医科大学 •北野病院 •相澤病院(長野) •長良医療センター •新潟大学 •島根県立中央病院 •松江赤十字病院 •湘南鎌倉総合病院 •兵庫県立尼崎総合医療センター •東京女子医大八千代医療センター •長崎大学